【第5回定期演奏会】

 

W.A.モーツァルト ディヴェルティメント  変ロ長調 K137

二回目のイタリア旅行から戻った16歳のモーツァルトは、1772年の1月から3月にかけて、ザルツブルクでK.136、137、138の3つのディヴェルティメントを作曲しています。いずれも弦楽合奏または

弦楽四・五重奏のための曲で、イタリア風の明るい旋律美に満ちあふれています。

通常ディヴェルティメントといえば、もっと楽章数が多いのですが、この3曲は、いずれもメヌエットなしの3つの楽章から成っています。このことから、モーツァルトは後で管楽器パートを加えて交響曲にする予定だったのではないか?と言う説もあり、「ザルツブルク・シンフォニー」と呼ばれることもあります。

第1楽章 Andante 変ロ長調 2/2 二部形式

ゆっくりとした出だしが印象的です。全体的に、しっとりとしたロマンティックな気分にあふれた楽章です。いくぶん憂いをたたえたようなのびやかな第一主題と、それに応えるような第二主題を中心に、叙情的に美しく発展していきます。短調か長調かはっきりしないような雰囲気も魅力的です。

第2楽章 Allegro di molto 変ロ長調 4/4 簡潔なソナタ形式

一転して急速な楽章になります。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの対話が楽しめます。若いモーツァルトの瑞々しい疾走感をお楽しみ下さい。

第3楽章 Allegro assai 変ロ長調 3/8 三部形式

アレグロ・アッサイ、第二楽章よりさらにテンポアップして、3/8拍子の快活でスケールの大きな舞曲です。

 

ボッケリーニ:チェロ協奏曲 変ロ長調 G.482 オリジナル版   チェロ独奏・池村佳子

ルイジ・ボッケリーニはイタリアの作曲家。1743年ルッカに生まれました。20歳前半には父とともにウイーンの宮廷に勤め高い評価を得、またチェロ奏者の名手としても国際的に知られました。同時代のハイドンと作風が似ていますが、さらに繊細で優雅な音楽だったので「ハイドン夫人」と呼ばれました。ヴァイオリンの練習曲として弾く 代表作『弦楽五重奏曲(第3楽章がボッケリーニのメヌエットとして有名)』は特に弦楽器を学ぶ者にとって馴染み深い身近な曲です。

彼の音楽は何か心をホッとさせてくれます。無邪気に音と戯れているような趣です。快活なメロディー、随所に出てくる細かい装飾音やシンプルな音形の繰り返しなど、野原を走り回って楽しげに微笑んでいる子供達の景色が見えます。理屈っぽい音楽とは無縁の爽やかさを感じます。

生涯10曲のチェロ協奏曲を残していますが、この変ロ長調の作品は現在最も有名なものです。これは19世紀後半のドイツのチェロ奏者、フリードリヒ・グリュッツマッハーが編曲した版で演奏されることが多いです。しかし、この版はチェロ協奏曲G、480の第2楽章を借用でしたものでかなり異なったものです。本演奏会ではボッケリーニ本来の魅力を知る意味で(原作者に尊敬を込めて)オリジナルの楽譜で演奏いたします。

第1楽章 アレグロ・モデラート変ロ長調

長い序奏の後に独奏チェロが元気よく顔をだし、軽やかに音と音の中を飛翔します。

第2楽章 アンダンティーノ・グラツィオーソ

変ホ長調深い息遣いの中に祈りの音ですべてを優しく包み込みます。

第3楽章 ロンド・アレグロ

変ロ長調躍動的なロンド主題に始まり、短いながら多様な音楽が展開します。まるで貴婦人がきらびやかなドレスを着飾り、踊りを楽しんでいるようです。

 

A.L.ドヴォルザーク 弦楽セレナーデ  ホ長調 Op.22

 「いつかはチャイコ・・・」。3年前に我々がチャイコフスキーの弦楽セレナーデを取り上げた時のプログラムノートの言葉である。9年前、大阪・京橋の練習場でアマチュア弦楽器奏者たち数人が集まって立ち上げたこの小アンサンブルにとって、チャイコフスキーは大きな目標であった。結成6年目にしてこの大曲を演奏しおえたとき、我々は次なる高みを目ざした。それが本日演奏するドヴォルザークの弦楽セレナーデである。

チェコ出身のロマン派の大作曲家ドヴォルザーク(1841-1904)。ひとに随喜の涙を流させるメロディを書かせては、音楽史上で屈指の存在。そんな稀代のメロディストがその手腕を存分に奮ったのがこの名品である。30代の半ば、オーストリア国家からの奨学金で生活の安定が保障され、作曲家としての自信を深めていった時期の作品。2年前に結婚した妻との家庭生活によるものであろうか、この曲は満ち足りた幸福感に包まれている。セレナーデの原義は「恋の歌」。全曲どこをとっても美しい愛のメロディにあふれている。

弦楽器のみで演奏されるセレナーデとしては、チャイコフスキーのそれと双璧をなす第一級の名曲。そして演奏の難度も超一級である。都島ストリングス創団以来、常に仰ぎ見る存在だった偉大なる名曲。そして、いつかは挑まねばならぬ高峰。だから我々にとって、きょうは「ついにドヴォルザーク・・・」なのである。

第1楽章 Moderato

「これを聴いて感動しない人はいない」(指揮者・南出信一)というほどの美しい旋律で始まる。その優美で抒情的な主題が連綿と歌い継がれてゆく。ふいに気分を速めて風景が流れるものの、ふたたび冒頭のメロディが回帰。いっそう心を込めて歌われる。まさに夢見心地である。

第2楽章 Tempo di valse

優しくもかげりのあるワルツが落ち着いたステップを踏みだし、しだいに熱を帯びてゆく。中間部(トリオ)で憂いの表情はさらに色濃く、ワルツの足どりはどこかためらいがちに。

第3楽章 Scherzo; Vivace

快活なカノン(模倣、追いかけっこ)が縦横に駆けめぐる敏捷な音楽。そこへ歌謡的であたたかなメロディが顔をのぞかせ、それが存分に歌いぬかれてゆく。静と動の巧まざる対比。

第4楽章 Larghetto

静謐、とはまさにこの音楽のためにある言葉。吸い込まれるように美しい夜の調べがひそやかに始まる。音楽はいくぶん不安な気持ちを高めながら足どりを速めるも、やがて穏やかな調べに立ちもどる。その詩情あふれるメロディは切々と歌い込まれ、ついには絶唱となる。ドヴォルザークの心に触れる思いである。

第5楽章 Finale: Allegro vivace

一転、活気あふれる力強いカノンで音楽がほとばしり出る。高音弦と低音弦の鮮やかなコントラスト。民謡的かつリズミカルな主題たちが音楽を加速させる。ひととき第4楽章の静謐な調べを想起するものの、やはりメランコリックで情熱的な気分が音楽をさらに加熱させる。音の奔流となったリズムの饗宴が終息するや、ふと第1楽章冒頭の優美な旋律がしとやかに回想される。しかしこの甘美なひとときも一瞬、鋭角的なリズムが力強く再現、全曲は一気呵成に閉じられる。あたかも一場の夢から覚めたかのような、鮮やかなラスト。


チェロ独奏 池村佳子

神戸市出身。1996年、兵庫県立西宮高等学校音楽科卒業。

1994年、第5回札幌ジュニアチェロコンクール優秀賞受賞。

1998年、第3回全日本ビバホールチェロコンクール審査員特別賞受賞。

1999年、大阪中央ロータリークラブ創立15周年記念室内楽コンクールにおいて、弦楽四重奏でグランプリ受賞。京都国際音楽学生フェスティバル'99に参加、委嘱作品を初演。第102回京都市立芸術大学定期演奏会においてT.ザンテルリンク指揮、学部オーケストラとハイドンのコンチェルトを協演。

2000年、京都市立芸術大学音楽学部卒業と同時に、音楽学部賞、京都音楽協会賞受賞。第5回サロン新人演奏会(大阪府文化振興財団主催)に出演。第4回全日本ビバホールチェロコンクール第3位入賞。「きょうと弦楽四重奏団」のメンバーとして、2001年度青山バロックザール賞受賞。

2002年、大学院賞を得て京都市立芸術大学大学院研究科を修了。

これまでにチェロを川畑善夫、上塚憲一、上村昇の各氏に師事。室内楽を上村昇、岸邉百百雄、J.W.Jahnの各氏に師事。

指揮 南出信一

16才よりコントラバスを始め、1972年 京都市立芸術大学音楽学部に入学。入学と同時にテレマン室内管弦楽団に入団、在学中にハンガリーのコダーイ弦楽四重奏団とシューベルトの『鱒』を共演し好評を得る。

1993年、左手人指指故障により同楽団を退団。

翌年フリーの演奏家として復帰、現在に至る。

コントラバスを西出 昌弘氏、ゲ-リ-・カ-氏、室内楽を故、黒沼 俊夫氏、ゲルハルト・ボッセ氏、指揮を堤 俊作氏に師事する。

現在、神戸女学院大学、京都市立音楽高校、兵庫県立西宮高校の各音楽科講師、和田山少年少女オーケストラ指揮者、ライツ室内管弦楽団を主催。